前回記事では、「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」による、クジラ調査の概要をお伝えしましたが、今回の記事では、そもそも“なぜ田島木綿子先生(国立科学博物館 動物研究部)がプロジェクトに参加することになったのか”や、“今後どのようなプロジェクトにしていきたいのか”をそれぞれ、田島木綿子先生、沖山雄一さんにお話いただきました。
十人十色のメンバーをまとめ上げて、研究統括も務めるのは国立科学博物館 田島木綿子先生。海獣学者として全国の現場を駆け回る一方でテレビ、ラジオ、書籍など、様々なメディアでも活躍中です。どのような経緯からプロジェクトに参画することになったのか思いの丈を伺いました。
プロジェクト参加のきっかけをお聞かせください。
ある日突然、沖山さんからとんでもない長さのメールが来たんです。
当時は面識もなかったので正直びっくりしました。笑
実際に会ってみるとすごい熱量のある人で、クジラや三宅島に対する愛情が感じられました。プロジェクトに対しても本気ということが伝わってきたので、この人なら信頼できそうだなぁって。 また、私自身、クジラに与えるストレスを軽減できる「ドローンを使った研究生体資料採取」は、いつかはやってみたい調査法のひとつでしたし、普段はできない“生きているクジラ”を相手に調査・研究ができるというワクワク・ドキドキが抑えられませんでしたね。
過去の調査と比較して今回はどうですか?
今回で3回目の調査ですけど、去年は目の前でいっぱいブローが上がっていましたよ。メンバーの観測が間に合わないくらい上がっていて、当時、取材にきていたテレビ局の方も「どうしましょう?」って困惑するくらいでした。笑
それに比べると今回のクジラは控えめですね。しかし、こればかりは仕方ありません。潮の流れや水温の影響が大きいので、ある意味その日の“運次第”なところはありますが、だからこそブローをひとつも見逃さないようにみんな集中し続けているんです。
そう語る合間も目線は海から外さない田島木綿子先生。
クジラの鼻水を必ず採取するという執念に近い熱意を感じました。
続いて、プロジェクト発起人である沖山 雄一さんにプロジェクトの展望をお聞きしました。
2年目に差し掛かった当プロジェクトですが、今後どのような形にしていくべきなのか、それが今一番迷っているテーマですね。最終的には、参画されているメンバーと決めていきたいですが、結局はどのような調査結果が出てくるのかによって左右されるものだと考えています。
このプロジェクトで、もしかすると見たこともないウイルスが見つかるかもしれない、新種のクジラが見つかっちゃうかもしれない。想像できない発見があるかもしれないからこそ、それ次第では、プロジェクトの舵を大きく切ることになるかもしれません。だから今の段階では、どのような結末を迎えるのかは、誰にもわからないことだと思っています。
その中で、唯一決めていることとしては、できるだけ長く続けること。
長く続けることができれば、このプロジェクトを認知してくれる人が徐々に増えていく。そうすると、色々な人が三宅島やクジラについて関心を持ってくれて、賛同や協力を得られることにつながります。そうなれば、プロジェクトは良い方向に進んでいくし、成功に近づいていくはずです。現状すでに、たくさんの人たちが賛同してくれているからこそ、プロジェクト発起人として、絶対にやめられないなぁと思っています。
続けることに意義があるプロジェクトにも、いっときの終わりがやってきました。
一生分の「ブロー」という言葉を耳にすることになった3日間。短くも長かった調査が終わり、採取できたクジラの鼻水は2サンプル。決して大量ではありませんが、継続して採取できたことに大きな価値があります。この後、サンプルは宮崎大学へと運ばれ、DNA解析へと進みます。
数ヶ月後ー
2023年12月に行われた三宅島クジラ鼻水プロジェクトにより採取できた鼻水の解析結果が、宮崎大学の西田伸先生から届きました。結果は... DNAの解析に成功!
過去のプロジェクトで採取したDNAとは異なる「A4」という若干レアなタイプのDNAを検出できたとのこと。この結果から、同タイプのDNAがフィリピン/沖縄/小笠原からも検出されているため、何らかの関係性が高いということや、カリフォルニア沿岸にいるクジラとは別の個体群であることがわかりました。このように、DNA解析を行うことで、個体群の識別や回遊ルートなど、謎であった部分を少しずつ紐解いていくことができるのです。
今後もどのような調査結果が出るのか、そして「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」はどこへと向かうのか。目が離せないサスティナブルなプロジェクトに、ZEISSは今後も「視る」という観点から貢献していきます。
国立科学博物館 動物研究部
Cafe691オーナー