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    地球と企業と私たちを繋ぐ。
    ツァイスが取り組む
    サステナビリティ活動とは。

    田丸智浩
    カールツァイス株式会社
    ツァイスグループ
    サスティナビリティコーディネーター
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    2023.3.7

すべての業界で社会課題に取り組むことが必須とされている今、企業の「CSV(Creating Shared Value)活動、共有価値の創造」が注目されています。光学機器メーカーとして人類の発展に貢献してきたという自負を持つ〈カールツァイス〉は、実際にどんな活動を行っているのでしょうか。次世代に向けたネイチャープログラムや、カーボンニュートラルの取り組み、さらにザトウクジラの生体調査まで。ツァイスグループで「KGPサスティナビリティコーディネーター」を務める田丸 智浩さんにお話を伺います。

企業の価値と地球の価値、どちらも高めていきたい。

現在の田丸さんの肩書きは「KGPサスティナビリティコーディネーター」とのこと、〈カールツァイス〉の中でどんな業務に携わっているのでしょうか。

2021年の秋、〈カールツァイスビジョンジャパン〉社長のヴィンセント・マチューがチェアマンとなり、組織や部署を横断してサステナビリティ活動を行う委員会を立ち上げることになりました。社内外で社会貢献活動を行っている人などが手を上げたのですが、私自身もそのひとり。もともと週末になると、学生時代の仲間や地域の人々と「子供の自然体験活動」に関わっていました。高尚な大義を掲げているわけではないのですが、大人子ども関係なく、自然に触れるニュートラルな時間っていいよね、という想いから始めたことです。また、20年以上前に「サステナビリティ」をテーマにした講義を受けていて、「開発だけでは限界がくるし、環境に配慮しないと企業価値は上がらなくなる」ということを感じ続けてきたのです。現在は、ツァイスがフィールドワークを行う上で必要な地域社会や自治体とのコラボレーション、また理想的なパートナーシップなどについて、アウトプットすることに携わっています。

ツァイスは「サステナビリティ」を体現する上で、「CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)」よりも「CSV(Creating Shared Value、共有価値の創造)」に共鳴しているとか。少し難しい言葉になるので、ツァイスの「CSV活動」について、簡単に教えていただけますか。

まず「CSR(企業の社会的責任)」ですが、企業が余った利益で行う善業と捉えられがちなところがありました。しかし、それではボランティアになってしまい、趣味に陥ってしまう可能性があります。一方「CSV(共有価値の創造)」は、企業としての価値を発信しながら、中長期的な利益にもつなげていくという考え方。だからより「CSV」のほうがフィットすると捉えているのです。イメージとしては「CSR」は企業の前提であって土台。その上にビジネスがあり、さらにその上に「CSV」がある。企業としてアクションするならば、やはり事業を意識すべき。内部への説得力、活動の継続性も考えて、そのように考えているのです。

「CSV(共有価値の創造)」を考えたとき、ツァイスには「Seeing Beyond」というブランドアイデンティティがありますね。

直訳すると「見えないものを見る」。そのことで人類の発展と公共の福祉にまで貢献してきたという自負があります。医療や理化学の基礎研究を支えているのはもちろん、たとえばツァイスの双眼鏡や顕微鏡で子どもたちが鳥や虫を観察する。すると環境や生命を学ぶ機会を生み出すことにも繋がる。CSV活動でそんな価値観を発信していきたいと考えているのです。

自然体験を通し、次世代に豊かさを還元していく。

さて、ツァイスのCSV活動の取り組みのベースに「STEAM教育」があるのですね。

STEAM 教育とは、「Science(科学)」「Technology(技術)「Engineering(工学)「Mathematics(数学)」に「Arts(芸術・教養)」を加えて、その頭文字を取った言葉です。ジャンルを超えた教育により、論理的思考力や問題解決能力が身に付くとされています。

ではさっそく、どんな活動が行われているのか、具体的に教えてください。

三菱地所、環境省、日本自然保護協会にお声掛けいただき、ここ大手町にある「3×3Lab Future(さんさんラボ フューチャー)」にて取り組んだのが、皇居のお濠の水を採取して、生体調査を行う「濠プロジェクト」です。これまでは水草など目に見える大きさの植物を中心に調査を行っていたものを、ツァイスの顕微鏡を提供することで、目に見えないミジンコレベルにまで落とし込んで調査しました。また、子供たちにも参加してもらうことで、彼ら彼女らの探究心を刺激する場にも。「見えないものを見る」というコアバリューを伝える価値ある取り組みになったと思っています。

皇居のお濠の水を採取して、生態系調査を行う「濠プロジェクト」の様子。
採取した植物や生物を、ツァイスの顕微鏡を使って観察。

すごく興味深いですね。ほかにどんな活動がありますか?

「3×3 Lab Future」を運営するエコッツェリア協会が主導で行っている「大丸有シゼンノコパン」というネイチャープログラムです。このラボの外に出ると緑豊かなホトリア広場がありますが、その植栽の木の葉脈を見たり、ビオトープにいるヌマエビの心臓を拡大して見たり。こんなちっぽけなものにも命が宿っていて、自然ってそこからスタートしているんだよ、という生命科学を学ぶ貴重な場になりました。

そのようなネイチャープログラムは、全国で行っているのでしょうか。

SDGs未来都市に選定された三重県のいなべ市に、デンマークのアウトドアメーカー〈ノルディスク〉が作ったヒュッゲサークルという施設があります。2023年1月末、いなべ市の家族を招いて、そこで自然環境教育プログラムを行いました。午前中は山道を歩き、双眼鏡で渡り鳥を観測。午後は川に出て、川石の裏に生息する水生昆虫を顕微鏡で調査しました。石の裏にはカワゲラやトビゲラ、カゲロウの幼虫などがいるのですが、それらを拡大し、図鑑と照らし合わせ、「○○の仲間」ではなく「○○カゲロウの幼虫」というレベルまで同定させていきます。午前中に見た渡り鳥は、フィリピンや沖縄など遠く離れた場所からわざわざ飛来してくるのですが、それはおそらく川の水生昆虫を食べるため。ではなぜここに水生昆虫がいるとわかるのか。それはおそらく渡り鳥のプログラムに記録されているからなのですが、まだ解明されているわけではありません。ツァイスの双眼鏡や顕微鏡を使った1日の自然体験を通し、そんな問いを立てるところまでやる。すると、生命の循環について学ぶだけでなく、その不思議さに魅了されて、もっと学びたいという探究心の芽生えまで誘うことができるのです。

すごく贅沢な体験ですね。

さらにもうひとつ、こうやって地方自治体と協力することで「関係人口の創出」まで図ることができます。あえて、地元のいなべ市の家族を対象にしたのは、子どもたちが自分の町の資源の豊かさを体感する時間にしたかったから。すると将来、都市部に出て行ったとしても、また戻ってくる可能性を高めることができます。ツァイス本来の文脈とは少し遠くなりますが、一企業市民としてそんなことにも協力したいと考えているのです。

また生物多様性への取り組み支援も行っていると聞きました。

国立科学博物館にて、ツァイスの顕微鏡を用いて作業を行っている海獣学者・田島木綿子先生への支援です。海獣が海岸に打ち上げられると、現場で顕微鏡を使って検死を行うのが海獣学者の活動のひとつですが、その後方サポートも行っています。その一つに「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」というものがあります。代表的なものとしては、三宅島に来遊するザトウクジラのブロー(鼻水)を調査することでザトウクジラの健康診断を行う環境プロジェクトです。海上から船でクジラを追うのではなく、ブロー(鼻水)採取用の特注ドローンを使って陸からクジラに近づき、ブロー(鼻水)を採取。動物により優しい調査方法を選択しています。ブロー採取のためのドローンの飛行を追うために必須な高精度の双眼鏡と、試料調査に必要な光学顕微鏡の提供を行っており、サポートを続けております。

先ほど触れた「STEAM教育」の一環として、田島先生による地域の児童生徒への講義も行っているとか。

ツァイス本社がある麹町エリアの学生を対象に開催しました。麹町中学校では講演に加えてワークショップを行い、麹町学園女子中学校では女性の生き方、働き方のロールモデルとしてのお話をしていただきました。

軸にあるのは「Seeing Beyond、見えないものを見る」。

続いて、カーボンオフセットの取り組みについてお聞かせください。

当社の大型装置については、基本的にドイツの本社より仕入れたものを国内に配送します。そのプロセスが飛行機の場合、211トン輸入すると857トンのCO2が排出されることがわかりました。つまり1トン輸入するのに4トンのCO2を排出しているということです。これが船になると30トンの輸入で4トンと、かなり排出量が減ります。また、トラックになると2000トラックで504トンの排出に。納品までの時間が長くなるという課題はあるものの、調達サイクルを工夫しながら、飛行機から船に替えていく動きが始まっています。またトラックに関しては、成田からの物流トラックについて、メディカルデバイスも理化学顕微鏡も双眼鏡も、同じ方面ならば混載して台数を減らすことに。2025年には現状のマイナス50%。2030年には0%にするという目標を掲げて、取り組んでいるところです。

では、これからのCSV活動について、お伺いしたいです。

まさにそのカーボンオフセットと連動した自然体験プログラムを考えているところです。まずはブルーカーボン(海洋生態系に取り込まれた炭素)への理解を深める「海草押し葉」のプログラムを計画中。また、これは構想段階ですが、グリーンカーボン(陸上生態系に取り込まれた炭素)については、アサギマダラに関するプログラムを思案中です。

アサギマダラとは…いったい何でしょうか?

『鬼滅の刃』の登場人物、胡蝶しのぶのモデルにもなった、外敵から身を守るために自らに毒を取り込む渡り蝶の一種です。この蝶は、秋の七草のひとつであるフジバカマを求めることがわかっています。そこで例えば長野県などの高原の町に、フジバカマガーデンのようなものを作ります。そこで吸蜜や産卵ができればグリーンカーボンオフセットに繋がるのではないかと。またアサギマダラの観測情報を地域同士でシェアすれば、地域創生にも役立つかもしれません。

それは素晴らしい構想ですね!

ほかにも土壌生物の調査も進めていこうと思っています。土地が豊かな場所は、ミミズやゾウリムシなどの微生物が分解者となっています。グリーンカーボンを考えたとき、植栽というアプローチもありますが、化学の基礎研究を支えてきたツァイスだからこそ「土壌の中の生態系を見る」ことに辿り着いたのです。

まさに「Seeing Beyond」「見えないものを見る」ですね。

それこそが、ツァイスだからこそできること。CSV活動というと難しく聞こえるかもしれませんが、重要なのは「なぜツァイスがやるのか」「ツァイスはどうやるのか」。そのレイヤーを深くすることで企業価値も深めることができるし、共有価値を創造することにもつながると思うのです。実際の落とし込みには時間が掛かりますが、一歩一歩前進していきたいと考えています。

  3×3 Lab Future  

■3×3Lab Futureとは

エコッツェリア協会が運営する交流・活動施設。会社でも自宅でもない第3の場所「サードプレイス」として、大手町・丸の内・有楽町エリアの企業・就業者のコミュニティ形成に取り組んでいます。日々、様々な社会課題をテーマにセミナー、ワークショップを開催。業種業態の垣根を越えたイノベーションの循環を生み出し、次世代のサステイナブルな社会を目指した活動を推進しています。

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