これまで一貫して「視る」「視える」ことにこだわりを持ち、社会に貢献してきたZEISSは、サスティナブルな社会の実現に向けどのような価値を見出していくのでしょうか。
今回は、10月に東京都内の公園で行われた、土の豊かさを計る土壌動物調査について、このプロジェクトをコラボレーションしたZEISSと立教大学の実施メンバー3名にお話を伺いました。
また、今後の取り組みについてもお話しいただきました。
まずは簡単な自己紹介をお願いします。
田丸:カールツァイス株式会社の田丸 智浩です。
「サスティナビリティ」はZEISSグループにおいて価値創造を推進する重要なテーマと位置づけられております。その中で主に「社会貢献」分野の具体的な取り組みを企画、実行するコーディネーター及びファシリテーターを務めております。社内での本業は別にありますが、兼務するかたちで奮闘努力させていただいております。
奇二: 立教大学のスポーツウエルネス学部で、准教授を務めています。大学ではサスティナビリティや保全について研究、活動しています。
また「生きものインタープリター」という異名を持ち、あまり知られていない生態や、自然の摂理などを目で見たり触ったり五感を刺激しながら伝える活動も実施しています。今回の土壌動物調査においては、参加者の方に向けて環境・野外教育活動を実施しました。
佐々木:カールツァイス株式会社の佐々木 崇です。光学顕微鏡技術を担当しています。
「ZEISS技術で顧客をときめかせること」を現場で実践しています。今回の土壌動物調査では、採取した微生物を観察する際の、顕微鏡使用のサポートを担当しました。
今回の土壌動物調査のプロジェクトについて教えて下さい。
奇二:今回行ったプログラムは、公園内に生息する土壌動物を観察し、土の豊かさを評価する取り組みです。具体的には、都会の土に棲む生物を採取し、顕微鏡で同定(識別)して土壌の評価を行いました。
生態系には、無機物から有機物をつくる、「生産者(植物)」、それを食べる「消費者(動物)」、そして死骸やフンなどの有機物を無機物に戻す「分解者(菌類など)」の3つが存在し、自然が循環している事を子どもたちに学んでもらいました。
子どもたちに楽しんでもらうために、何の生きものか分かるように特徴を細かく記した検索表に加え、種類別に点数(スコア)をつけたシートを用意し、堀った土の中から見つけた生きものたちの合計点によって、土壌の豊かさを定量的に評価しました。
子どもたちだけでなく大人の方々も驚きや発見があり、最後まで熱心に取り組んでいただけたので、非常に価値ある自然科学の体験だったと思います。
自然の循環を学んでもらうことの他にどんな意図がありますか?
奇二:今日のプログラムが終わって、多くの方から「あっという間に時間が経った」というお声をいただきましたが、自然観察を行うと、他のことをまったく考えないくらい集中する瞬間があります。例えば、ハンターが獲物を追い詰めるまで息を詰めるようなイメージ。
そのような無心になる瞬間が自然体験や自然観察にもあると思っており、ピークエクスペリエンスやランナーズハイで得られる心地よさや幸福感にも共通すると考えています。
そんな新しい感覚を覚えてもらう事をもう一つの狙いとして考えていました。
私も参加させていただきましたが、観察に夢中になりすぎて、唇が土についてしまうなんて事も...
奇二:それは面白いですね(笑)。きっとその瞬間は過去の後悔や未来の不安は考えず、現在、目の前のことだけを考えているマインドフルネスの状態だと思います。そんな貴重な感覚が自然体験で得られると思います。
サスティナビリティにおけるZEISSの果たす役割とは
自然体験において、レンズに期待できる事ってなんでしょう。
奇二:一番はやはり、自然を鮮明に見せてほしいということです。また、自然体験は感動だけでなく、あらゆる危険も伴うため「よく見える」ことは非常に重要です。そのため、危険軽減のためにも、メガネレンズに助けていただきたいです。
田丸:解像度を上げた世界を子どもたちに体験をさせる事の意義と、サスティナビリティとの結びつきについてはどうお考えですか?
奇二:地球温暖化は数値化できるようになり、管理ができるほど進んでいるため、現状の把握や数値目標も立てられるようになりましたが、残念ながら生物多様性の分野ではそこまで進んでいません。
生物多様性も数値化を急ピッチで進めていますが、興味を持っている人が少ないため、それを実施する人がいないのです。
次世代への興味を引くには、素晴らしい自然体験や、楽しい思い出を提供することが大切です。たとえば、今回の公園での自然科学体験が楽しかったと思った方は、その場所を失うことを望まないでしょう。
つまり、実際の体験を通してその場所の魅力を心身で感じることは、環境保全と深く結びついており、サスティナビリティの原点だとも思うのです。
そのために自然をクリアに「視る」「視える」ことは、感動的な自然体験を提供する上で欠かせない大事な要素ですので、ZEISSの役割は非常に貴重だと思っています。
田丸:光学ブランドが果たす役割は結構大きいという事ですね。
奇二:そうです。全ての人たちにクリアな世界を届けてほしいですね。
「視る」「視える」に徹底してこだわる
今回のプログラムは顕微鏡というレンズを通じて「視る」「視える」プログラムであったと思います。「視る」ということについて、顕微鏡のスペシャリストとして佐々木さんの想いがありましたら教えてください。
佐々木:今はデジタル処理を使って何でも拡大して見ることができる時代ですが、モニター越しでは平面的な世界しか感じることができません。対象を実際に目で捉え、そのイメージが脳の中で立体的に構築されることで、頭脳に非常に強い刺激を与えると考えています。
今回のプログラムにおいても、顕微鏡を通じてお子さんたちに「楽しかった」「綺麗だった」と言ってもらうだけでなく、それが明日、明後日、来年になっても、もう一度見てみたいと思ってもらえるような、心に残る体験になっていれば大変嬉しいです。
「視る」「視える」ことのご自身の”こだわり”のようなものあれば教えてください。
佐々木:3、40年間、裸眼で過ごしていた私が初めて眼鏡をかけて世界を見た瞬間、驚くほどシャープな視界に感動した経験があります。同様に、顕微鏡を覗いた時、肉眼では見えなかった小さなものが、鮮明でリアルに見ることで得られる驚きや感動があると思います。
顕微鏡のレンズは、実は多くの拡大オプションが用意されており、お客様のニーズに合わせた最適な組み合わせを考えることが非常に重要です。
お客様が実際に顕微鏡を覗いた際に、感動し、笑顔を見せてくれた時が、私にとって嬉しい瞬間であり「視る」「視える」ことにこだわる理由の一つです。
これは私だけではなく、全てのZEISS社員が似たような想いを持っていると思います。
ご自身が考える、光学ブランドとしてのZEISSの強みは何だとお考えでしょうか?
佐々木:レンズの品質だと思います。レンズは細かなケアが必要であり、専門的なノウハウやコーティング技術など、数字だけでは評価できない部分がレンズの品質を決定する重要な要素の一つです。
顕微鏡の基本的な光学技術は200年以上も大きく変わっていませんので、その点において、どのメーカーもスペックだけを見ると同様の性能を持っているように見えます。
それでも、ZEISSのレンズを通してその先の世界を見たときに、多くの人がその美しさに驚き、魅力に引き込まれるのは、ドイツの職人たちがこだわりを持って磨き、製造した製品に数値では表現できない特別な要素があるからです。これこそがZEISSの最大の強みであると考えています。
「世界がクリアになる」レンズを通してさらなる感動体験を届けたい。
今後も自然科学プログラムを行っていく上で、ZEISSとコラボレーションしたいことはありますでしょうか?
奇二:今回のプログラムでZEISSレンズの素晴らしさがさらに理解できたので、引き続き生物多様性に関わる活動を支援していただきたいです。
虫は不快な存在というイメージが一般的ですが、ZEISSレンズを通して観察すると、その美しいデザインや形態の迫力といった、肉眼では気づかない驚きがある。そういった価値観の転換をぜひ一緒に実現していきたいですね。
あとは、星空の観察です。私の研究で、「畏敬の念(美しい自然や風景などを見て強く心を動かされたときに、尊敬する想いを表すときに使う表現)」を感じる自然体験を調査した結果、一番効果的なアクティビティが星空を観察することだったんです。
それは興味深いですね!
奇二:流れ星が1分に1回くらい見られ、天の川も観察できる新潟県のキャンプ場で、学生たちと駐車場でマットを敷いて横になり、みんなでただぼんやりと星座を指しながら話す。
この体験が最も「畏敬の念」を感じ、生きがいや実存的な肯定感を高めたようです。
ZEISSの双眼鏡を使用すると、肉眼では見えない暗い場所でも多くの星が観察できるため、今後はZEISSの光学技術を活用して、より感動的な自然体験を提供していきたいです。
田丸:ZEISSとしても、今後はメガネレンズを通じて星空を観察するプログラムを考えています。
ある展示会で視覚科学の先生から「ZEISSのメガネレンズはまさに星空を綺麗に感動的に見るためのレンズです!」というお言葉をいただいたことがとても印象に残っております。
奇二:ぜひお願いします!非常に需要があると思います。
田丸:冒頭で自然と健康の関連についても少しお話いただきましたが、その観点から言えば、視覚は五感の中で80%を占めるとされています。視界がクリアであることは、健康に寄与すると考えているのですがお二人はどうお考えでしょうか?
奇二:あると思います。単純に気持ちが良いとか、すっきり見えることは感動につながると思います。
佐々木:ぼんやりした世界が急にシャープになると、気分が一気に上がる。おそらくそれによって思考能力の向上も期待できると思います。世界がクリアになることは、健康だけでなく、さまざまな良い影響をもたらすのではないでしょうか。
田丸:なるほど。「世界がクリアになる」素晴らしい言葉ですね。
最後に、サスティナブルな社会の実現に向けて、ZEISSの今後の展望について教えて下さい。
田丸:今後、光学製品を用いたSTEM教育プログラム「A Heart for Science」においては、生物多様性を学ぶプログラムなどを通じて子どもたちに自然科学への興味をもってもらうことで、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような社会づくり」に貢献したいと考えていますし、これは継続的に取り組んでいくことが非常に重要だと考えています。
当社単独ではできないことがあるため、コレクティブ・インパクト(企業・行政・NPO・自治体などの専門家が連携し、社会課題の解決のために協力する)を促進してさらに影響力を拡大していきたいと考えています。
また、星空の観察についても、力を入れていきたいと考えています。奇二先生の研究結果は非常に興味深い内容でしたし、ZEISSのレンズを通じて、さらに感動的な体験を提供できると確信しています。
今後も「視る」「視える」を通じて「世界がクリアになる」そんな感動的な体験を提供して、サスティナブルな社会の実現に貢献していきます。
生きものインタープリター
リサーチマイクロスコピーソリューション所属
光学顕微鏡技術担当
サスティナビリティコーディネーター