この春、東京・麹町にある〈カールツァイスビジョンジャパン〉の本社ショールームにおいて、メガネ店向けの展示会「Kojimachi Optical Fair 2022 at ZEISS」が開催されました。同展示会には、ツァイスのみならず国内外の人気アイウェアブランド〈テオ〉、〈ファクトリー900〉、〈マイキータ〉、〈マサヒロマルヤマ〉も参加。今回はその中の3ブランドと〈カールツァイスビジョンジャパン〉の4社で展示会を振り返り、現在のトレンドや今後の展望についても語ってもらいました。
ツァイス初となる自社開催の展示会。
今日は皆さんお集まりいただき、ありがとうございます。まずは自己紹介をお願いできますか。
ルカ:ベルギーのアイウェアブランド〈テオ〉で日本のアンバサダーを務めているストローガル・ルカです。
青山:〈青山眼鏡〉の青山 嘉道です。自社ブランド〈ファクトリー900〉のデザイナーです。
土方:ドイツのアイウェアブランド〈マイキータ〉で営業を担当している土方 美怜です。
乾:〈カールツァイスビジョンジャパン〉でマーケティングの責任者をしている乾 大輔です。
メガネ業界では春と秋に新作展示会が行われていますが、今回のようなレンズメーカーが主体の展示会は珍しいかと思います。この展示会が開催された経緯を教えてください。
乾:今回は、弊社初の試みとなるインハウスの展示会となりました。これまでは外部の合同展示会などに出展していましたが、コロナ禍で開催の見通しが立てづらかったこともあり、本社のショールームにて自社で開催してはどうかという話になったんです。
「どのような展示会にしたら、来場されるお客様に喜んでいただけるか」と考えた末、アイウェアブランドとコラボレーションすることが一番シンプルで本質的であるという結論に至りました。レンズはフレームと一緒になって初めて、“メガネ”になりますからね。そこで、皆さんにお声掛けをさせてもらったんです。
ルカ:〈カールツァイス〉といえばレンズの一流ブランドですから、声を掛けてもらい嬉しかったです。本社に広くきれいなショールームがあることも知っていたので、きっと良い展示会になるだろうという期待感がありました。当日はランチの用意もあって、会場全体にウェルカムな雰囲気がありましたね。
青山:〈ファクトリー900〉では、これまで原宿にある直営店で展示会を行っていました。ですが単独開催だったため、次第に顧客以外の方との接点がなくなってきてしまい、ちょうど外の会場に出展することを考えていたところだったんです。今回おかげさまで新規のお客様ともお話しすることができましたし、来場者からも好意的な意見が多かったように思います。
土方:新規のお客様にブランドの紹介ができたことは、本当にありがたかったですね。私たちも直営店で展示会をしていたのですが、少々手狭だったんです。今回は〈カールツァイス〉さんの社内の広いスペースをお借りできたので、お客様にゆったりと新作を見ていただけました。
乾:皆さん、嬉しい感想ばかりで恐縮です(笑)。弊社としても、世界的に評価の高いブランドとコラボレーションできたことに感謝しています。実際、各ブランドへのアポイントで来場されたお客様にツァイスの製品をご紹介することができましたし、相互送客の効果もあったと感じています。
良いフレームには、良いレンズを。
乾:ツァイスはレンズを作っているだけでなく、適切なレンズを作るための機器まで総合的に手掛けているのが特徴です。弊社ではそれを「ビジョンケアソリューション」と呼んでいますが、ショールームであれば測定の段階からすべての機器を実際に体験してもらうことができます。営業先では資料ベースでしか説明ができなかったため、この体験を喜んでくださったメガネ店さんも多かったです。
ルカ:お客様に〈カールツァイス〉の測定器の素晴らしさが伝わったのは、とても良かったと思います。やはり良いフレームには良いレンズを入れてほしいと私たちも思っているので。
乾:しっかり丁寧に度数を測定してもらうと、気持ちも盛り上がりますよね。ツァイスは測定の段階からそうしたカスタマーエクスペリエンスを作ることで、「せっかくなら、フレームも良いものにしたい」と思える付加価値も提供できる。それが強みだと考えています。
青山:直営店のスタッフから聞いたのですが、一度〈カールツァイス〉のレンズでメガネを作ると、「次もツァイスで」とリピートされる方が多いそうです。現在、店舗には「i.Terminal® 2」を導入していますが、最新の測定器「ZEISS VISUFIT 1000」も気になっているんです。
というのも、うちのブランドはデザイン的に特殊なものが多いので、「i.Terminal® 2」の測定時に必要な治具をフレームに装着するのが難しいことがあるんです。その点、治具を付けずに測定器の前に立つだけでレンズ作成に必要なデータが取れる「ZEISS VISUFIT 1000」は、ブランドとの親和性が高いなと思っています。
乾:おっしゃる通り「ZEISS VISUFIT 1000」は9個のカメラが内蔵されているので、測定器の前に立つだけで360度に近い3Dデータが取れるのが特徴です。
ルカ:その撮影データで、アバター試着もできるんですよね。
乾:「バーチャル トライオン」ですね。撮影データからお客様のアバターを3Dで作成することで、画面上にてリアルなバーチャル試着ができるというシステムです。今後はこのアバターのデータを、店舗だけでなくモバイルでも使えるようにする予定です。それが実現すると、例えば一度店舗でアバターを作成したお客様であれば、入荷したばかりの新作をデータ上で試着することも可能になります。それにより、来店を促すお手伝いができればと考えているところです。
レンズカラーは今季も薄色がトレンドに。
土方:〈マイキータ〉は〈カールツァイス〉と同じドイツのブランドなので、本社同士の繋がりが強く、お互いがリスペクトし合っているのを感じています。実際に直営店では〈カールツァイス〉のレンズを一番におすすめしていますし、サングラスコレクションには〈カールツァイス〉オリジナルのカラーレンズが入っているモデルも多いんです。私自身も愛用していますが、視界がとてもクリアで、夕方になっても見やすいなと感じます。
ちょうどこれからサングラスが活躍するシーズンですが、レンズカラーにもトレンドはあるのでしょうか。
土方:〈マイキータ〉のサングラスは濃いめのカラーが主流ですが、日本のマーケットでは薄めのカラーが人気ですね。マスクにサングラスだと怪しく見えてしまうという理由で、カラー濃度15~25%ぐらいの目元が透けるものを選ばれる方が多いです。
青山:〈ファクトリー900〉では、この春「サングラスをデイリーに」というコンセプトで女性向けのサングラスをリリースしましたが、やはりシーンを選ばず掛けてもらえるようレンズカラーは薄めで作りました。目元が隠れると相手に威圧感を与えてしまうと感じる人が、日本には多いようですね。薄い色のレンズが流行るというのは、日本独特の文化かもしれません。
乾:たしかに、そもそも日本のマーケットは海外に比べてサングラスの需要が低いです。とはいえ、薄いレンズカラーがトレンドになったことで取り入れやすくなり、逆にサングラスを掛けている人が増えたようにも感じます。日常使いには薄いカラーが使いやすいですが、しっかり日差しを防ぎたいアウトドアやスポーツなどには濃いレンズが向いていますし、用途により適した濃度でサングラスを楽しんでもらえたらいいですね。
メガネ業界でも進むサステナブルな取り組み。
今回の展示会は、それぞれ独自の世界観をもったブランドが集まっていましたね。〈ファクトリー900〉は独自技術を駆使した立体感のあるデザインが特徴的ですし、〈テオ〉はカラフルなフレームが並んでいたのが印象的でした。〈マイキータ〉には、3Dプリンターで作られたフレームもありましたね。
土方:3Dプリンターでのフレーム製作は、じつはもう12~13年前からの取り組みになります。その間クオリティもブラッシュアップされていて、最近ではメタル素材とのコンビネーションも展開しています。独特の質感と軽さが特徴です。
それ以外にも素材にはとてもこだわっていて、実はこの春からアセテートのコレクションはサステナブルな素材に完全移行します。米国の素材メーカーである「イーストマン」との協業で開発した「アセテート リニュー」というものを使用しているのですが、持続可能な方法で調達された木材パルプを60%、残りの40%はイーストマンの技術により製造されたリサイクル素材で作られています。これは業界初の試みです。
乾:やはりヨーロッパではそうした環境に配慮した取り組みが進んでいますね。ツァイスではGSR(グリーン、セーフ&レスポンシブル)と呼んでいますが、2025年までにエネルギー使用量を20%削減、水の使用量を15%削減するなど、グローバルグループ全体で数値目標を掲げています。レンズパック(加工前のレンズ)の径を小さくすることで廃棄物を削減しているのも、そのひとつです。
青山:日本のメガネ産地である鯖江市がSDGsに取り組み始め、メガネ業界にもその波が訪れているのを感じています。数年前には、イタリアのメガネ生地メーカー・マツケリ社が土に還るバイオプラスチックを使った生地を発表していました。物を作っている以上少なからず環境を汚染してしまうので難しい問題だとは思うのですが、一人ひとりがゴミを出さないとか食べ物を残さないとか、きちんと当たり前のことをやるだけでも変わっていくのかなと思います。
乾:そうした意味では、良いものを長く使うというのもサステナブルですよね。現在メガネ業界は安価なものと高級なものと二極化が進んでいますが、今回の出展ブランドはデザインの背景や作りもしっかりとしています。その分決して安くはないですが、長く大切に使いたいと思わせてくれる。そうしたメガネを選ぶのも、今の時代にフィットしていると思います。
皆でメガネシーンを盛り上げていきたい。
今回の展示会は初の試みとなったわけですが、今後やってみたい取り組みがあれば教えてください。
乾:開催して実感したのは1ブランドで何かするよりも、知名度のあるブランド同士が集まることで、よりシーンにインパクトを与えられるということです。ぜひ、今後も皆さんと何かコラボレーションできたらと思っています。
ルカ:これからはもっと人が集まりやすくなるでしょうから、ブランドが集まってユーザー向けのイベントなどをできたらいいですね。我々のマーケットはまだまだ小さいので、他のブランドは競争相手というよりパートナーであると考えているんです。皆で「メガネはおしゃれなアイテムです!」というメッセージを積極的に発信していきたいと思っています。
土方:今回は東京での開催でしたが、このメンバーで地方でも一緒に展示会ができたら楽しそうですよね。
乾:たしかに、キャラバン方式もアリですね。メガネって、「見ること」と「見られること」を兼備した稀有なプロダクトだと思うんです。今は「見られる」こと、つまりファッション的な面がフォーカスされがちですが、実際にメガネを掛ける人の多くは見えづらさを感じているはずです。見られることも大事だけれど、見ることも大事。どんなにカッコいいフレームでも、レンズ選びひとつで台無しになってしまうこともあります。レンズメーカーとしては「見ること」の重要性をしっかり啓蒙しながら、皆さんと一緒にメガネの魅力を発信していけたらと思っています。
マーケティング責任者