俳優として、映画やドラマなどで存在感のある役柄を演じる小林聡美さん。映画『かもめ食堂』や『めがね』などでの自然体の演技は、作品を作り上げるのになくてはならないエッセンスとなっています。仕事で人前に出る時はあえてメガネを外している小林さんですが、プライベートでは欠かさずメガネを掛けているといいます。小林さんにとって、メガネはどのような存在なのか、愛用しているフレームを見せていただきながらお話をお聞きしました。
いつ頃からメガネを掛けていますか?
近眼になり始めたのは、中学3年生の頃でした。当時メガネを手にして、歳を取ったような、大人になったような、でも少し嬉しかったような記憶があります。それからずっとメガネを掛けていますが、実は40歳の時にレーシックの手術をして、近視を克服したんです。仕事の時はコンタクトレンズをつけていたのですが、2〜3時間経つと目が乾いてしまって本当に辛くて。時には、見えないままで仕事をしていたこともありました。いまは裸眼でも遠くが見えるようになって、すごくラクになりましたね。
それは大変でしたね。仕事は裸眼、プライベートはメガネと使いわけているんですね。
いままで仕事の時以外はずっとメガネだったので、近視が治ってからも、服を着るのと同じように、掛けていないと落ち着かないんですよね。メガネなしで外を歩くのは裸でいるような感じ(笑)。掛けると安心する、ライナスの毛布のような存在ですね。逆に仕事の時はメガネを取ってむき出しの私、というふうにわけています。
お仕事でメガネを着ける場合は、ご自身で選ばれるんですか?
自分で選ぶとついいつもと似たようなものを選びそうなので、仕事で必要な場合は、小道具としてメガネを用意してもらうようにしています。あまり似合わなくても、その方が面白いんですよね。とはいえ、やっぱり似合っている方がいいので、違和感があると相談して決めたりはします。
様々なデザインと用途を使い分けて、
気分やイメージを変えていく。
普段は、どんなメガネを掛けていますか?
家でよく使うのは、主に2つのメガネです。ひとつはパソコンを見る用にブルーライトカットレンズを入れたもの。もうひとつは、本を読んだりするための老眼鏡ですね。遠くは見えるようになったのですが、40代半ばくらいから近くが見えにくくなってしまって、最近は老眼対策に苦労しています。お風呂で本を読むのにも掛けているので、老眼のメガネはかなり過酷な使い方をしてしまっていますね。外出する時は軽くおしゃれをする気持ちで、紫外線カット機能を入れた遠近両用レンズにして、目の保護のためにもメガネを役立てています。
デザインの好みはありますか?
好みはその時々で。ずっと似たようなデザインのものを掛けていると、自分で自分の顔に飽きてしまうんですよね。40代の頃はガッチリとしたフレームが好きでしたが、ここ最近は気分を変えて、華奢なデザインのフレームを選ぶことが多くなりました。今日用意していただいたような比較的重めのデザインにも興味があって、今探しているところなんです。歳を取ると、顔の雰囲気が全体的にぼんやりしてくるので、メガネでキリッとアクセントをつけるのも楽しいかなと思っています。
メガネを選ぶ時、機能面で気をつけていることは?
掛けていて、重くて疲れてしまわないかなどは気にしますね。あとは後ろのアーチの部分や横幅も、調整してくださる方によって随分掛け心地が違ってくるので、フィットしているかをきちんと見てくれるところで買うようにしています。
フィット感も大切ですよね。好きなブランドやお店はありますか?
〈白山眼鏡店〉は、そういう面でも安心感があるし、落ち着いてゆったり選べるのでよく行っています。あとは、友人に教えてもらったお店に行ってみたり、近所の街のメガネ屋さんで買うこともありますね。ブランドだと、ドイツの〈MYKITA〉のフレームは本当に軽いんですよ。華奢なのにすごく丈夫で、多少乱暴にあつかっても無事でいてくれます(笑)。
様々な役柄に入り込むための、
変身装置としてのメガネ。
役作りでメガネをかけるシーンもあるかと思いますが、演じる上でメガネの存在について考えることはありますか?
メガネを掛けるか、掛けないかで、役柄の意味が変わってくるのかなとは思います。これまでメガネの役を演じる機会は意外と少なかったのですが、2007年に出演した映画『めがね』は、みんなで集まったら全員メガネだったという、あるあるな感じが面白くて、そういう設定で遊んでいるのがいいな、と思います。メガネを掛けると気分も変わるし、丸腰で顔を出すのとは違う、ちょっと意味のある役なのかな、という期待感がありますね。衣装と一緒で、役柄のフィルターを増やしてくれる、変身のための装置なのかもしれません。
お仕事柄、見たり、見られたりするシチュエーションが重要な場合もあると想像します。そうした視覚の作用とはどう向き合っていますか?
仕事中にいろいろなものが目に入ってくると、集中しにくい時もあるんですよね。近眼でいろいろ見えなかった頃はいまより心臓が毛深かったかも(笑)。いろいろ見えるようになってからは、逆に見ないようにしようという意識が働くようになりました。逆に、美しい舞台やステージは、出演している人の表情や動きをなるべくじっくり見たいですよね。そこで伝わってくる感動というのは、メガネによってさらによく見ることができるからこその素晴らしさだと思いますね。
光の眩しさを抑えてくれる、
機能的なレンズが気になる。
メガネに関して悩んでいることはありますか?
老眼鏡の作り方がまだあまりよくわからなくて、大きいフレームで作ったら逆に見えづらくなって、失敗してしまったんですよね。レンズが大きいと、見る場所によっては歪んで見えてしまったりする。どのくらいの大きさのレンズがちょうどいいのか、フレームの形なども試行錯誤しているところです。
遠近両用の場合は、3センチ以上は高さがあった方がいいとされていますが、近くだけ、遠くだけの場合は、レンズが大きすぎると見える範囲が広がって、見えづらくなる箇所ができる場合がありますね。ツァイスではフリーフォーム技術を使ってひとりひとりの顔の形状を計測して、フレームに合わせて0.1mm単位でレンズをフルでオーダーメイドすることができるんです。
それはすごいですね。進化した技術で、細やかなカスタマイズができるのに驚きました。今度、失敗してしまったレンズを作り直したいです。
他にも、ツァイスのレンズには様々な機能がありますが、気になるものはありますか?
抗ウイルスの「DuraVision AntiVirus Platinum(デュラビジョン・アンチウイルス・プラチナム)コーティング」は、今の時代ならではのレンズですね。映画館や劇場でもメガネを掛けていると真正面をガードできる気がして、少し安心するんです。あとは、紫外線を浴びるとサングラスになる「PhotoFusion(調光レンズ)」。つけたり外したりするのが面倒で、普段サングラスはしないんですが、遠近両用でしかもサングラスにもなれば、掛け変える手間も省けるので便利そうだなぁと。
調光レンズは、色が抜ける速度がこれまでより早いレンズも開発されているのでオススメです。ほかに、夜道などでの反射や光のチラつきを抑える効果のある「DriveSafe Lenses(ドライブセーフ・レンズ)」なんかもありますよ。
レーシックをしてから光が眩しく感じたり、映画館でテロップが発光しているように見えたりすることがあるので、チラつきを抑えてくれるコーティングはよさそうですね。暗い部屋で映画を見る時にも使えそうです。楽屋の鏡なども、たまにLEDの光が強すぎて目が痛くなることがあるので、嬉しい機能かもしれません。
デジタル全盛期の未来にも、
人の目を守れるように。
今後、メガネに備わって欲しい機能はありますか?
すでにたくさんの機能があって、十分すぎるほどだと思いますが……。そうですね。お風呂やサウナでもレンズが傷まなければ便利かもしれませんね。でもせっかく裸でリラックスしているのにメガネを掛けて見えすぎというのもなんなので、やっぱりいらないかな(笑)。
いまはデジタル全盛の時代で、パソコンや携帯もそうですが、これまで経験したのとは違う目の疲れ方をすることが増えました。例えばこれからバーチャルリアリティなどが進化して、想像を絶する目の使い方が出てくると、ますます人間の目の機能の仕方も変わっていかざるを得なくなります。それに合わせてレンズもますます進化して、私たちの目の機能を守ってくれるようなものが開発されていくといいですね。