ドイツ本社で立ち上がったサイネージ制作の企画。日本では国内のメガネ店にフィットする形でこの度美しいサイネージを完成させました。サイネージを通して伝えたい環境やものづくりへの想いをマーケティングチームの南雲さんと小川さんに聞き、そんな思いをどのようにデザインに落とし込んだのかをデザイナーの秋山かおりさんに語ってもらいました。
ツァイスの世界観をサイネージでも表現。
まずはマーケティングチームの南雲さんと小川さんのおふたりの経歴について教えてください。
南雲:前職ではコンタクトレンズメーカーに勤めており、経営企画、海外事業、営業企画に携わっていました。そのあとドイツに2年半弱駐在し、中間物流拠点としての現地法人の設立から管理運営までを行っていました。帰国後は、臨床研究に関わるなど、これまでにものづくりのさまざまなステップを経験してきました。ツァイスに入社後は、マーケティングチームで、どうしたらツァイスのメガネレンズをより魅力的に伝えられるかを日々考え、発信しています。
小川:私はこれまでさまざまな会社でデザイン業務を行なってきました。ツァイス入社後は、ドイツ本社でデザインされたものを日本の仕様にローカライズする仕事がメインです。ツァイスには、プロダクトやマーケティングに関してデザインのルールがしっかりと定められていますので、ブランドイメージを守りつつ、日本で伝わりやすいデザインを提案しています。
今回、新しく制作したサイネージが「ZEISSビジョンエキスパート」の店舗に置かれるとのことですが、改めて「ZEISSビジョンエキスパート」とは何でしょうか?
南雲:ツァイスの眼鏡は、オーダーメイドで仕上げる高性能なレンズだけでなく、世界最先端の測定機器での測定も大きな特徴です。私たちは、ツァイスの測定機器を用いた測定からレンズができるまでを通して、お客様に「ZEISSエクスペリエンス」を体験していただきたいという思いを持っており、ツァイスの測定機器をどのくらい導入して頂いているかによって4つのグレードを設けています。
「ZEISSビジョンセンター」に続いて、2番目のグレードで導入してくださっているのが「ZEISSビジョンエキスパート」。今年から本格的に店舗を展開していて、現在は全国に5つほどの店があります。その5店舗それぞれにサイネージが設置される予定です。
サイネージは日本でのみ設置する予定でしょうか?
小川:もともとドイツの本社でサイネージの設計はすでにできていたんです。ただ、サイネージを設置する空間が日本とドイツではあまりにも違っています。ドイツのメガネ店は日本の3倍近くの大きさがありますから、その空間に合うものを日本に置いてもフィットしません。だったら日本の規格に合うサイネージをつくろうというということで 、プロジェクトが始まりました。もちろんツァイスの世界観を守りながらです。
迫力さえ感じるツァイス“白”の世界。
今回、デザインを秋山かおりさんにオーダーすることになった経緯を教えてください。
南雲:当社がまず最初にコンタクトをしたのは、@カマタというものづくり・まちづくりに関する企画開発を行う会社でした。ここは東京都大田区の蒲田エリアで活動するクリエイターのコミュニティとして様々なプロジェクトを行なっている会社で、サイネージのディレクションについて相談しました。
今日撮影しているこの場所も@カマタが運営しているクリエイターが集まるコワーキングスペース「KOCA」ですが、打ち合わせに行った際に入居されている様々なクリエイターのアトリエを見学させてもらった中で、秋山さんの作品を見て、一同がビビッとくるものを感じました。@カマタのメンバーからもこの企画には秋山さんがぴったりなのではないかということでジョインしてもらい、秋山さん・@カマタ・ツァイスの三者でのプロジェクトが始まりました。
秋山さん、ツァイスのサイネージをつくるという話を聞いたときはどう思いましたか?
秋山:実は最初はツァイスが眼鏡のレンズをつくっていること自体を知らなかったんです。私の中ではツァイスといえばカメラレンズの印象が強かったんですね。デザイナー仲間で使っている人もいて、いい写真が撮れるのはもちろん、モノへのこだわりが強いデザイナーが好んで使っているイメージでした。
お話をいただいてからツァイスについて色々調べて、175年もの深い歴史があることや最先端の技術で高い品質のレンズをつくり出していることなどを知りました。ショールームに行って、ツァイスの測定機器で測定してもらったときの衝撃の体験は忘れられません。
計測していただくことで視力だけではなく左右の眼そのものの形状の違いを認識できたり、昼間と夜間の見え方を計測したり。そのとき検査してくださった方も病院の眼科に勤務されていた視能訓練士とのことで、会社には元医療関係の方も何人もいらっしゃるということも教えてくださいました。顕微鏡をはじめ手術機器も多く手掛けるツァイスならではだと思いました。
デザイン面では、ツァイスのショールームの圧倒的な「白の世界」に魅せられました。清潔感や精密さが伝わってくるのはもちろん、何か白のすごみ、迫力みたいなものも感じましたね。この世界観をサイネージにも投影したいと思いました。ツァイスのレベルの高いものづくりの信条を伝えられるデザインとはどんなのだろう、という方向性で考えていきました。
デザインのポイントを教えてください。
秋山:眼鏡を買うとき、色々なブランドのフレームの試着はできても、レンズの比較をすることはなかなかできませんよね。ツァイスのレンズは、「着けてみて、これまでのレンズが本当は自分に合っていなかったことに気づいた」という声が多いと聞きました。ツァイスのレンズを体験したら新しいクリアな視界を手に入れることができたと言うことです。それをサイネージで表現しようと思いました。
中央に設けた透過度の高いパーツは、明るくクリアに見通すことの出来るツァイスの視界。その両サイドに設けた霧がかった不透明なパーツはツァイスを知る前の世界、というイメージです。
南雲:そういった想いを込めて作ってくださったデザインと聞いて、とても感動しました。
両サイドのアクリル板で霧のように見える素材はなんでしょうか?
秋山:実は、こちらはツァイスがレンズを作る時に出る削りかすなんです。ショールームで色々とご紹介いただいた時に最も印象に残った素材でした。
小川:眼鏡レンズは、元となるパックと呼ばれる丸いレンズ素材をひとりひとりの度数に合わせて表面を削ることによって出来上がります。このときに大量の削りかすが出てしまうんですね。今回、それを捨てずにサイネージの素材として使うことができたらと考えました。削りかすを素材として使うことは難しかったですか?
秋山:初めての試みだったのでうまく加工できるか不安でした。かすがアクリルに溶けてしまうかもと思ったり、沈殿して溜まってしまうかもなどと心配でした。量や散らし方など試行錯誤して何度もやり直し、結果として均等に削りカスが舞って霧がかったような表現を可視化できて安心しました。
それから、切削粉を送っていただいた時に、レンズの気配を感じさせる少し大きめな破片が入っていたんです。初めは抜いた方がオブジェクトとしての完成度は高まるとも思ったのですが、敢えて入れることによる未知への探求や好奇心が勝ち、一歩踏み出したところ、意外な美しさが生まれることが分かりました。ツァイスの皆様からの反応もよく、一つ一つランダムに霧の中でレンズ片が舞う様子をご覧いただけるサイネージとなりました。
小川:店舗に置いた時のイメージもわきますね。
秋山:サイネージからも、「ツァイスだったらきちんとした検査で処方してもらえる、自分に合ったものが手に入る」というメッセージがお客様にも伝わったら嬉しいです。
サイネージから伝える、2つのメッセージ。
削りかすをリユースするという考え方は今の時代にも合っていますね。
南雲:はい。環境への取り組みは様々な形がありますが、このようなモノを通して目に見える形で残すというのも、直接的に伝える良い手段になると思いました。
ほかにもツァイスでは環境問題に積極的に取り組んでいるそうですね。
小川:本社では2025年に向けてカーボンニュートラルを目指していて、22年までに世界中の工場をクリーンエネルギーでまかなうことを目標にしています。日本はまだそこまで進んでいませんが、できることから取り組んでいます。
例えば、先ほどのレンズパックにしても、通常は1種類のサイズを用意して削っていけばいいのですが、それでは削りかすが増えてしまいます。そこで、元となるレンズパックを色々なサイズでつくることで削りかすを減らす取り組みを行なっています。削るときにはかなりの熱が出るためそれを冷やす大量の水も使うのですが、削る量が減れば水量も減ります。環境資源の面から、物理的にも取り組んでいます。
それでは最後に、今後トライしたいことについて教えてください。
小川:これからもツァイスを知らない人に、いかに体験してもらい、その快適さを知ってもらうかを考え続けたいです。ツァイスの明るくクリアな空間、コントラストがはっきりしてキュッと引き締まるような視界、目に映るものが生き生きと飛び込んでくるような世界をひとりでも多くの人に体験してもらいたいです。そしてお客様がツァイスに求めるものに耳を傾け、実現していけたらと思っています。
南雲:私は、ツァイスのレンズを営業の皆さんや眼鏡店の皆さまがよりおすすめしやすくなるよう、各製品の特長や個性をどんどん発信していきたいと思っています。また、ドイツ本社の研究成果である新製品を日本でもたくさんの方に使っていただけるように、ローカライズを進めていくことが私のミッションだと考えています。そのために必要なSNSを通したコミュニケーションも積極的に行いたいと思います。
秋山:今回、このような形で関わらせていただいた私自身、すっかり心を掴まれましてツァイスファンになってしまいました(笑)。これまでの歴史や技術に裏打ちされたアカデミックな伝え方に関しては業界内でもほかの追随を許さないくらい強固なものだと思います。もしも私にできるとしたら、ツァイスの魅力をデザインを通したソフト面からアプローチすること。ぜひお手伝いさせていただければと思っています。
STUDIO BYCOLOR
マーケティングコミュニケーション
南雲真由子
マーケティングコミュニケーション・眼鏡レンズ製品担当
前職ではコンタクトレンズメーカーにて経営企画、海外事業等に携わり、ドイツに駐在中は現地法人の管理運営などを経験。現在は、製品の魅力を広めるために新製品のローカライズや、広報・広告業務を行う。
小川菜穂
マーケティングコミュニケーション・グラフィックデザイナー
様々な会社にてデザイン業務を担当。現在は、ドイツ本社で制作されたデザインを日本の仕様にローカライズし、製品がより多くの人に認知されるよう努める。
@カマタ