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    体験を写し、記憶を創る。
    映像作家が語る創作の裏側。

    貴田祐斗
    映像ディレクター/フォトグラファー
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    2025.1.27

「視える」の先にある新たな体験を提供することで、みなさまのQoV(Quality of Vision)向上を目指し続けているZEISS。今回は、東京・大阪を中心に映像ディレクター兼フォトグラファーとして活躍されるCOMPOの貴田祐斗さんにインタビュー。プロフェッショナルとして「視覚体験」を追求する貴田さんの、作品づくりに対する姿勢や価値観、ZEISSへの想いをお伺いしました。

まずは自己紹介からお願いします。

COMPOの貴田祐斗と申します。自己紹介のときは、映像ディレクター兼フォトグラファーと名乗ってはいるんですけど、特に領域に制限を設けているつもりはないんです。屋号にもなっている“COMPO” は “composition”、つまりは「合成」の意味合いもあって、より良い作品づくりのため様々な人と共にものづくりをしたいという想いを込めています。

フォトグラファーになろうと思ったきっかけは何ですか?

小さい頃の話になるんですが、1994年に世界的な建築家であるレンゾ・ピアノが設計した「関西国際空港」が完成したんですよ。弟と僕は、当時流行っていた「写ルンです」を手に、家族で関空へ遊びに行きました。そこでパシャパシャと撮影したものを現像してみると、僕の写真だけ全然ブレてなかったんですよ。可愛がってくれていたおじいちゃんもすごく褒めてくれて。そういう体験があったからか、何かやっていくなら写真かなーと、漠然と考えていました。
あと、ビデオカメラではなく、スチールカメラで映像が撮れるようになったのも、丁度そのころなんですよ。当時はまだ、国内でそれに挑戦している人は少なくて。他の人と同じことをやっても面白くないし、観る人が驚くような映像が撮れるんじゃないか ということで、ムービーの勉強もはじめることにしました。

人を喜ばせたり、驚かせたりすることが好きだったんですね。

というよりは、人を喜ばせることが、僕にとっても嬉しいことなのでwin-winである事が大切です。仕事においても、例えば「こんなことしたい!でも予算が潤沢にない…」というような依頼が来るとむしろ燃えますね!「何が必要だろうか」「どうやったら叶えられるだろうか」と考えることが、いまだに楽しくて仕方ありません。もちろん予算があるに越したことはないですが、クリエイティブとは目の前のことに向かい合う姿勢だと思うので、常にクリエイティブな姿勢でいたいです。こんなに楽しいことをして生計を立てる事が出来ている僕は、ほんとにラッキーな人間なんだと思っています。

これまでの人生で印象深い「視覚体験」ってありますか?

視覚体験ですか…。印象に残っている仕事は沢山あるんですよ!様々なジャンルの仕事を経験させてもらってきたので。ただ、仕事じゃないんですけど印象深い体験がひとつあります。それは、20代前半のときに、よく友人と山登りに行ったんですよ。
山の上の世界って、地上と全然違うじゃないですか。シーンとした静けさだったり、見渡す限りの見通しの良さであったり。その景色を見たときに、「これを映像にしたらすごく良いんじゃないか」と思ったので、ハンディカムを握りしめてもう一度登りました。そして、手当たり次第に山頂の風景を撮影して、編集ソフトに入れてみたら、全っ然良くないんです!(笑)
あんなに感動した山頂の風景が、まったく表現できなくて。そのときに、そのままを写していてはダメだということに気付かされ、自分が感じた体験を伝えるには、「何を撮ればいいのか」「どう撮ればいいのか」を今まで以上に考えるようになりました。例えば、「山の美しさ」を伝えるために、山そのものでなく被写体から受ける印象が似ていると感じる感覚を大切にしています。僕が伝えたいのは「山」ではなく、「山の美しさ」なので。伝えたいことを「視覚体験」として共有するために、“最適な被写体を、最適な演出で表現する”ということを意識するようになりましたね。

貴田さんにとって「視覚体験」とは、どのような意味を持ちますか?

そうですね。感覚的な話ですが、ただ見るだけでは単なる情報に過ぎないので、アタマの中を通り過ぎてしまうんです。しかし、それが視覚体験として昇華されると、心を動かして、記憶に残る。「思い出補正」って言葉がありますよね?あれも同じことかと思っていて、ただの視覚情報として入ってきたものに、自分の中の“なにか”が足されることで視覚体験と呼べるものになるのではないかと。なかなか言語化は難しいですけど、永く記憶に刻まれるものが、「視覚体験」なのではないか?と思っています。

「視覚情報」と「視覚体験」の違いということですかね?
過去の体験を鮮明に記憶されている貴田さんならではの面白い解釈ですね。

視覚情報を視覚体験に昇華させるには、「ちゃんと見えている」ということが非常に重要です。僕は普段、眼鏡レンズもZEISSを愛用しているんですが、初めてかけたとき「今までこんなに見えてなかったのか」と驚かされました。裸眼よりもコントラストが上がって見えるんですよね。「黒いところが、より黒く見える」、みたいな。見えてなかったところまで認識できる。それによって、視覚情報から得られるインスピレーションの頻度が上がる。結果として、視覚体験に出会える回数が増えるのかなぁと。

クリエイターとして視覚体験の演出する際に
「撮影機器」が与える影響は大きいですか?

もちろん大きいです。機材次第では自分がやりたい表現を適切に表現できないこともありますから。基本的に、道具に対しては「表現したいことができれば良い」というスタンスですが、選べるならやっぱり自分好みのものを使いたいですね。ZEISSレンズもそのひとつです。
もちろんスペックの話も長々とできるんですよ?歪みがキレイだとか、抜けがどうこうだとか。ただ、ZEISSレンズの最も良いポイントは“佇まい”です。それは、プロダクトとしての佇まいもですけど、写真を撮ったときの「おぉーーーーーっ」という感動。それを細かく、スペックがどうこう説明するよりも、“佇まいが良い”という言葉の方がしっくりきます。カメラマンをはじめとする表現者って、スペックで作品を作っている訳ではありませんからね。ブランドとしての歴史やフィーリング、ZEISSを使っているという満足感みたいな要素も、絶対に演出に関係してくると思っています。

そんなZEISSに期待することはありますか?

僕の中で、ZEISSって「質実剛健」なイメージがあるんですよ。プロダクトにしても、プライスにしても。ちゃんとした製品を、適正な価格で販売していて。だからこそ、これからも変わらないでいて欲しいです。ZEISS好きが、ずっとZEISS好きでいられるようなブランドでいてくれることが、僕が唯一ZEISSに期待することです。

貴田さんの今後の展望を教えてください。

実は今、リアル空間を活用した作品展示を計画しています。元々は、作品を発表する媒体に大きなこだわりはなかったのですが、スペインのプラド美術館に展示されている「ラス・メニーナス(ベラスケス作)」という絵画を観たことで強い衝撃が走りました。詳しくはここでは語りませんが、実際に観ることにより完成する、まさに“視覚体験の最高峰”だと感じました。これはInstagramなどオンラインでは表現できない事です。やってみたいイメージは明確にあるので、あとはアタマの中にある理想を表現するにはどうすれば伝わりが良いのかを日々考えています。

貴田さんの作品展示、楽しみにしています!
最後に、「視覚をもっと楽しむためのヒント」があればお聞かせください。

これは普段、僕も実践しているんですけど、街に遊びに行く際に“ひとつのキーワードを設定して物事を見てみること”です。例えば、今日は「赤いモノ」というように、設定したキーワードに関連するものを見つけるようにすると、いつもの街が違った景色に見えてきます。意外と身近にあるものって、自分が思っている以上に認識できてないので、些細なことですけど、視覚体験を楽しくするためのコツです。きっと毎日に新しい発見をもたらしてくれると思いますよ。

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貴田祐斗
映像ディレクター/フォトグラファー
大学卒業後、電子音楽のミュージシャンとしてイスラエル、イギリス、ベルギーなど世界各地でライブ活動を行う。その後、大阪にて映像制作プロダクションCOMPOを立ち上げ、映像ディレクター/フォトグラファーとして活動。現在は拠点を東京・大阪の2箇所に展開。活動範囲も国内外多岐にわたる。 Instagram @yuto_kida
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