• 選ぶ人

    メガネ番長・みうらじゅん&
    いとうせいこうが行く、
    ツァイスりんくう工場潜入記。
    [前編]

    みうらじゅん
    イラストレーターなど
    いとうせいこう
    作家・クリエーター
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    2022.7.27

これまで数々の企画でタッグを組んできた盟友、みうらじゅんさんといとうせいこうさんが、〈カールツァイスビジョンジャパン〉のりんくう工場に潜入! メガネとサングラスのイメージが強いおふたりが、高い技術力で国内外のメガネレンズを生み出す国内唯一の生産拠点をくまなく巡り、現場をレポートします。工場見学に先立って、みうらさんといとうさんが〈カールツァイス〉の歴史について語るつもりが、妄想トークが止まらない…。ということで、前編では現場(工場)ではなく会議室で繰り広げられた爆笑トークの模様をお送りします。工場見学の様子は来月公開予定の後編でどうぞ!
【カールツァイス注】:ツァイス製品についてのトークには、一部フィクションが含まれています。おふたりの妄想トークを存分にお楽しみください。

双眼鏡を初めて見た人は
楽器かなにかだと思ったと思う(笑)。

いとうせいこう(以下、いとう) なに書いてるの?

みうらじゅん(以下、みうら) (ホワイトボードを叩いて)「必ずホシを挙げる!」

いとう なにそれ。

みうら なんかさ、控え室代わりに通されたこの会議室が、捜査会議で使われる部屋みたいだったから。

いとう 今日の工場見学には犯人はいないよ。メガネレンズが作られる現場を調べにきたんだから。

みうら 一応、俺は捜査一課長・大岩 純一気分でいるよ。

ツァイス製レンズを搭載した顕微鏡の当時の広告画像。

いとう なるほど。じゃあ、とりあえず用意してもらった〈カールツァイス〉の歴史の資料を見ていこうか。本国ドイツのカールツァイス社は創業175年を迎えたんだよね。1911年に日本法人ができてから約112年みたい。

みうら SINCEもすごいね。

いとう その前の1880年代にも、北里柴三郎先生がペスト菌を見つけた顕微鏡もカールツァイスのレンズが使われていたと。

みうら 顕微鏡から始まったんだ。あと、これなんか、東郷平八郎が使ってた双眼鏡にもツァイスのレンズがついてたって。

東郷 平八郎氏が1905年の日露戦争日本海戦で使用した、ツァイス製のプリズム式5-10×25双眼鏡(三笠保存会所蔵)。

いとう レンズが4つあるよ。遠近両用かな。

みうら いや、これ、バグパイプじゃない?

いとう いやいや、双眼鏡って言ってるのに!?(笑) 出る音、少なそうだよ!

みうら 当時、これを初めて見た人たちはみんな、この覗くとこをチュウチュウ吸ってたんじゃないの?

いとう (笑)。

みうら お腹空いてる人は中に当然ご飯が入っていると思うじゃない!? だって、革のケースが飯盒の色だもん。

いとう 「このケースかっこいいね」ってなって、開けてみたら「あれ?」ってなるね。

みうら ご飯入ってないよってね。

いとう 肺活量を調べる道具にも似てるしね。

みうら プゥーッと、思いっ切り吹く人もいたかもね。でも、いろいろやったあとに、「うわっ、見える!」って。

いとう 『2001年宇宙の旅』で骨を手に取る猿みたいなもんだ。

みうら 宇宙といえば、大阪万博の前の年、1969年に人類初の月面着陸を果たしたアポロ11号の船員が使っていたカメラにもカールツァイスのレンズがついてたんだって。

いとう アームストロングさんが撮ったやつ。

みうら 小学生の頃ずっとニュースでやってたから覚えてる。

いとう 初めての月だから、最高のレンズってことでNASAにカールツァイスが選ばれたんだね。

俺たちみたいな発想から
ツァイスも名作を生み出したんだよ。

みうら どこらへんからカメラのレンズに使われてるのかな?

いとう カメラレンズにはその前からあったみたいだけど、日本では70年代に〈ヤシカ〉と作った〈コンタックス(CONTAX)〉から?

みうら 風邪薬より早いね。

いとう それは「コンタック(CONTAC)」ね(笑)。べつに複数形じゃないから。

みうら そっか(笑)。

いとう 別物だからね。末尾が「X」になるとレンズになるって覚えよう。この話いらないよね(笑)。それに、〈ヤシカ〉はのちに〈京セラ〉に吸収されてるしね。

みうら 俺のイメージの「セラ」はもう、パリジェンヌのイメージなんだよね。ケセラセラ的な。

いとう 「人生なんかどうでもいいわ」的な。

みうら 「レット・イット・ビー」つーかねぇ。

いとう ドイツと日本のメーカーが組んだってことだ。レンズをどう生かすかは、筐体側次第だよね。

みうら 「レンズはありますけど、どうですか?」って。

いとう だから俺たちが組んでもいいわけでしょ?

みうら 俺さ、部屋の窓ガラスに度が入っていればいいと思うんだよね。

いとう 自分の度に合わせて。

みうら そう、それなら外をメガネなしで外が見られるじゃん

いとう ガラスと自分の距離が合ってないと見えなくない?

みうら 勉強机を置く位置が肝心だけどね。たまに目を休める時にふと外を見たら、ばっちり六甲山が見えるって寸法。

いとう 目を休められてないじゃん。

みうら じゃあ…。

いとう じゃあってなに(笑)?

みうら 大きい薄型のレンズを持ち歩くのはどう? 旅行の時に新幹線の窓に貼ると、景色がバッチリ見えるやつ。

いとう A席とB席の人が争いにならない?

みうら そこは窓側を取った人間の度を優先するしかないけど…。

いとう みどりの窓口で急いで予約取らないとね。

みうら そうなるね。窓口の人に「レンズ側ですか、アウトレンズ側ですか?」って聞かれるよね。

みうら あと傘がレンズになってるのもいいね。

いとう 絶対暑いし、見づらいし、もうメガネでいいじゃん。
いや、メガネがあるのに、窓とか傘とか別に代案はいらないのよ。

みうら そっか。じゃ、服でもいいよ。服の裾や袖がレンズ。捲って見たりして。

いとう だから、それもメガネでいいのよ。

みうら いや、こういう突拍子もない発想が大事じゃないの?

いとう わかるよ。

みうら きっとこれまでのカールツァイスの発明も、このような話から生まれてるんじゃないの?

いとう まあ、そうかもね。お、ようやくメガネレンズの話になってきたぞ。

目と鼻と耳があるんだから
メガネを掛けない手はないでしょ!

みうら で、ツァイスのメガネレンズはいつからあるか、ってことだけど?

いとう えっと…1912年に医療用具として「プンクタール」っていうレンズが出たって。

みうら プンクタールさん!

いとう いや、人の名前か知らないけど。このレンズをかけると「どの方向を見ても像がにじまない」とのこと。

みうら それまでは周囲は鮮明に見えなかったんだ。

いとう 正面しかちゃんと見えなかったみたいよ。

みうら 見るものの正面に向き直ってきてたのかな。前にいとうさんが言ってたけどさ、メガネをなんで耳に掛けたのかって。その発見はノーベル賞モノだと思うよね。

いとう うん、「耳があるじゃねーか!」って。ちょうど目の横に耳があるっていう大発見。

みうら そこにいた人みんなで「うわー耳!」って叫んだだろうね。

いとう 目、鼻、耳全部、メガネのためにあるじゃないか、掛けない手はないじゃないかって。

みうら そりゃ、掛けたくなるよ。いとうさん、いつからメガネ掛けてるんだっけ?

いとう 中一から。

みうら 俺は小五からだから、俺らの耳と鼻っ柱は長年に渡り、鍛え上げられてるってことね。

いとう たまに耳痛くなるけど。

みうら だねぇ。それに鼻の脇、凹んでるでしょ? メガネの鼻当て用ってくらいにね。そこも痛くなるわな。

いとう それは眼鏡屋で調整しなさいよ。

みうら だねぇ。

いとう ツァイスのレンズは薄くできるから。

みうら 遠近両用も薄くできるの?

いとう うん、俺もそうだから。

みうら 薄いといいね。しかし、遠近両用って、グラデーションになってるんでしょ!? 遠と近。すごいよね、それも。

いとう いまだに原理がわからないけど、とんでもない発明だよね。何か溶かしてるのかなぁ!?

みうら ガラスの粉の濃度を濃いところから薄くしていって、ぴしゃんって伸ばしてさ。江ノ島で売ってるタコせんべいみたいにさ。

いとう あんな感じに伸ばしてるの? 最終焼くの?

みうら じゃないの? タコせんべいはその時キューッて音がするんだけど、レンズはどうか知りたい。(周りを見て)あとで見せてくれるんでしょ?

いとう …。

みうら …。

いとう ほらー! 誰も答えてくれないんだよ。これは、俺たちがいろいろな疑問を出していく時間なんだな。

みうら それで、あとで答え合わせをさせようって魂胆に違いないよ。

工場長がポロシャツの会社って
見学する価値があるよね(笑)。

いとう なるほどね。それで、サングラスの時代が来るのか。これはみうらさんの専門分野だね。

みうら 眼鏡屋さんでサングラスを作る際に、「サングラスは時間が掛かるんです。この色はある工場で染めていて…」と言われてピンときたの。サングラスのレンズって、長い時間漬けておくんだなって。

いとう レンズを?

みうら そう、いくらの醤油漬けみたいに。

いとう まさか! 漬けか!

みうら 以来、「サングラスは漬けである」という説を俺は唱えてるよ。

いとう 職人さんがこの色だっていうときに、お箸であげないといけないじゃん。でも、レンズってそんなにインクが染みるものなの?

みうら 歳取ってきたら、やっぱり染みてくるよ、人生が。

いとう いや、心の話じゃないのよ。それなら、うっかり置いていたところに赤い万年筆のインク落としたら、染みるんじゃない。

みうら それは、コーティングしてあるので染みません!

いとう 言い切った。最後はコーティングか! そういえばコーティングっていえば、抗菌加工が気になるんだよね。抗菌の成分が表面についてるってこと? 落ちないのかな。

みうら それはこの後のお楽しみ♡

いとう 盛り上げるね〜。



(こちらでいよいよ工場内へ潜入)

堀 りんくう工場の工場長を務めます堀と申します。それでは、準備が整いましたので、工場内にご案内します。

いとう やっとツァイスの人が来たよ(笑)。

みうら というか、工場長、ポロシャツなの?作業服じゃなくて?

いとう 洒落てる! 工場見学、ますます期待できそうだね!

「いとうさんと工場長」 撮影:みうらじゅん
「俺らが撮りたいのはやっぱり工場長!」 撮影:いとうせいこう

メガネ番長・みうらじゅん&いとうせいこうが行く、ツァイスりんくう工場潜入記。[後編]は、8月中旬公開予定。お楽しみに!

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みうらじゅん
イラストレーターなど
1958年生まれ、京都府出身。1980年に武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年には、自身の造語である「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。「ゆるキャラ」の名付けの親でもある。いとうせいこう氏と各地の仏像をめぐる『見仏記』シリーズは、書籍やDVDで人気を博す。近著に『マイ遺品セレクション』『マイ修行映画』など。
いとうせいこう
作家・クリエーター
1961年生まれ、東京都出身。1988年に小説『ノーライフ・キング』でデビュー。「ボタニカル・ライフ」で第15回講談社エッセイ賞受賞、「想像ラジオ」で第35回野間文芸新人賞受賞。近著に『福島モノローグ』などがある。現在『東北モノローグ』を文藝、河北新報で連載中。音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。みうらじゅん氏とイベント『ザ・スライドショー』をプロデュースするなど幅広いジャンルで活躍中。現在はnoteで「ラジオご歓談!」を配信中。
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