• 伝える人

    トップの頭の中にある、
    メガネ業界全体の
    サステナブルな未来。

    白山 聡一
    東京メガネ 代表取締役社長
    日本眼鏡関連団体協議会代表幹事
    ヴィンセント・マチュー
    カールツァイスビジョンジャパン 社長
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    2022.6.10

レンズや最新の測定機器を手掛ける〈カールツァイス〉と、メガネを人々に届ける販売店〈東京メガネ〉。メガネ業界のキーマンといえる会社のトップ2人が、メガネやレンズのこと、業界におけるSDGsやサステナビリティについて意見交換をしました。人の目に優しく寄り添うとともに、持続可能な社会にも貢献するメガネはどのように叶えられるのか、未来のメガネを考える対談です。

歴史ある会社だからこそできること。

創業から140年近い歴史を持つ〈東京メガネ〉ですが、その歩みについて教えてください。

白山:歴史が長く、わからない部分も多いのですが、現在の人形町店に住んでいた先祖が家業の〈白山眼鏡商店〉として始めたようです。戦前の東京の中心が、西側の日本橋や浅草にあったと考えると、かなり立地のいい場所で商売をさせていただいていたのだと思います。昔は視力の計測も、メガネの工業的技術やフィッティングも、全て職人の手作業でした。明治維新後のウィーン万国博覧会でメガネが日本に入ってきてから、技術者の地位は向上し、産業として著しく発展していったと考えられます。その後、東京大空襲による被害を逃れて人形町の店は残り、昭和24年(1949年)の武蔵野デパート(現・西武百貨店池袋本店)からのオファーを皮切りに、デパートのメガネサロンとして成長し、事業規模を広げていきました。 

「メガネは顔の一部です」という有名なCMのキャッチフレーズは、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか? 

白山:1972〜3年頃に誕生して主に80年代にかけて放送されていたものですが、付き合いのある広告代理店が考えたものと聞いています。当時3歳くらいだった私に、父がいくつかのメロディーを聴かせた中で反応の良いものを選んだそうです。私自身は記憶がないので本当かどうかはわかりませんが(笑)。 

世界の貴重なアンティーク眼鏡や補聴器を展示する〈東京メガネミュージアムS・T・A・G・E〉。メガネやレンズの歴史を、実物を見ながら学ぶことができる。

〈ツァイス〉との関係性について、いつ頃からどのようなきっかけでお付き合いが始まったのですか? 

白山:1970年代後半〜80年代頃、〈マルヴィッツ〉というブランドを扱っていた代理店が、〈ペンタックス カールツァイス〉だったと聞きました。ただ当時、眼鏡レンズの扱いはほとんどなく、双眼鏡やルーペが多かったようです。もっと調べると、昭和12年(1937年)のお店のポスターに、〈ツァイス〉の商品が掲載されたものがありました。戦前は特に、レンズに関してはドイツ製の評価が高かったと思います。90年代には、一時的に関係性が途絶えた時代もありましたが、いまはまた復活しています。 

poster
1937年、〈東京メガネ〉が〈白山眼鏡商店〉だった当時の広告ポスター。〈ツァイス〉ブランドの双眼鏡やメガネのイラストも。 

マチュー:白山さんとは5年ほど前、メガネ業界の新年会でお会いして以来のお付き合いになりますね。でも、これまでの〈ツァイス〉との関係性については、初めてお聞きしたので感動を覚えています。お互いの会社に長い歴史があるということ、困難な時期もありましたが、時代に適応したビジネスを進めているところに共通するものを感じています。ドイツでは、1945年に戦争が終わって会社が東西に分かれてしまい、1990〜91年にまたひとつとなるまでに長い時間が掛かりました。 

大切なのは、人が主役のビジョンケア。

マチュー:今後、〈ツァイス〉としては、アイケアやビジョンケアというところにもフォーカスしていきたいと思っています。それには、お客さまとインタラクティブなコミュニケーションを取っている〈東京メガネ〉とともに、ビジネスをうまく促進できればというところがあります。また、今日のテーマであるサステナビリティに関しても、地球温暖化などの問題を、多くの歴史から学んで共に進めていくことが必要だと考えています。 

白山:我々にとっても、ビジョンケアは最も大切な柱です。お金を払ってもいいと思ってもらえるようなビジョンを担保しながら、ファッションとしての楽しみがどれだけの付加価値を提供できるかだと思います。〈カールツァイス〉は早い段階からビジョンケアについて研究し、測定器なども開発している第一人者ですから、そのブランド力を現場で感じることも多いです。 

マチュー:とても光栄です。175年の歴史を持つ〈ツァイス〉のブランドは、大切にしていきたいもののひとつです。その価値を理解していただけて、さらにそれ以上の付加価値をつけてもらえるのは、とても嬉しいことだと思います。〈ツァイス〉でも、レンズを作るまでのカスタマージャーニーを分析した上で、より良いものを提供しようと、包括的なサービスを整えることに取り組んでいます。また近年、デジタルが主流となり、著しく変わる生活シーンにおいても、課題を解決する商品づくりを進めています。スマートフォンやデジタルデバイスを多用するライフスタイルのための、「SmartLifeレンズ」などの新しいシリーズもそのひとつです。 

白山社長は日本眼鏡関連団体協議会の代表幹事も務められていますが、業界の活性化のためにどのような活動をされていますか? 

白山:戦後70年以上、メガネ業界は資格の問題を抱えてきました。そして、ようやく今年、眼鏡作製技能士という国家検定資格ができました。有資格者がユーザーのために良い商品を提供すると認知されれば顧客のすそ野が広くなり、単価も上がり、よりマーケットが拡大します。同時に資格者の社会的地位も向上し、やり甲斐のある職種となり、さらに良い商品やサービスが提供できるようになる。そういう良いスパイラルが、現在約4千億の小売りの市場をかつての6千億まで戻すことに繋がるかもしれない。そこで必要なのはやはり、価格主導ではない、付加価値の高いレンズだと思うんです。 

課題の多い、メガネ業界のサステナビリティ。 

現在、メガネ業界が抱えるSDGsの問題には、どのようなことがありますか?

白山:福井県鯖江市の〈さばえSDGs推進センター〉が福井県眼鏡協会に働きかけたことをきっかけに、2019年末、日本眼鏡関連団体協議会にSDGs推進委員会を立ち上げました。そこからようやく、全国的な活動が始まったところです。協議会では「メガネですべての人が豊かな生活を送れる社会をつくろう」と宣言しています。また最初の取り組みとして、2020年3月の世界女性デーに合わせて、女性の活躍の場を広げ、さらなるジェンダー平等を目指す「オレンジめがねキャンペーン」をスタートしました。コロナの影響もあって具体的な活動に関しては、これから協議をしていく段階です。 

また、〈東京メガネ〉としては、古いメガネを回収して海外支援を行う団体に送ったり、健康寿命の延伸に欠かせない「視る」「聴く」の提供、視力・聴力障がいを抱える方へのハンディキャップの不安を解消するアドバイス、職場環境での男女平等や、快適に働けるサポート体制の確立、障がいを持つ方の積極雇用、太陽光発電やCO2削減など低炭素社会に向けた取り組みも行っています。これらをメガネ業界全体に広げていくことが、重要だと考えています。 

我々のような小売業は製造をしているわけではないので、環境問題を考えるにしても、業界へ広げようと考えるとメーカーさんに負担を強いることになってしまう。ですからまずは、自分たちが当事者になれる問題を入口にすることが大切だと考え、我々ができるジェンダーや雇用などの人権問題から整理していこうと考えました。 

上/べっ甲をリユースしたメガネ。下/ジェンダー平等のための「オレンジめがねキャンペーン」のために作られたオレンジ色のメガネ。 

マチュー:〈ツァイス〉はもともと財団が基盤ということもあり、利益を求めるためというよりは、科学や研究に力を入れてきたバックボーンがあります。また、ドイツで初めて1日8時間の労働時間制を取り入れて、その基盤を作るなど、長い歴史に培われた社会的責任も大きいです。そうした面で、日本でも障がいを持つ方々を雇用して、千葉の農場で野菜を作るなどの活動も行っています。 

産業においても、原材料や製造工程を更新し、環境に適応していく取り組みをしています。レンズでは、基材を薄くすることでプラスティックの廃棄物を約50%減少させ、それに伴うエネルギーや水を削減しました。サングラスレンズも、再生可能な素材を約40%含んだレンズを作っています。その製造工程にはクリーンエネルギーを使用し、CO2の削減に力を入れています。さらにクリアレンズに関しても、サングラスレンズと同じ仕組みを取り入れられないかを考えているところです。レンズの削りかすの再利用なども検討しているところなので、一緒に取り組めることは多いのではないかと思います。 

白山:それは楽しみですね。店頭では固めて産業廃棄物として出すか、メーカーに引き取ってもらう手段しかないので、将来的に店で出る削りかすをリサイクル使用することまで可能になれば嬉しいです。 

マチュー:現段階ではまだリサイクルはできていませんが、クリスマスの時の飾りに使用するなど、ガラスの削りカスをリユースしています。今後、お客さまの不要なメガネや削りかすを集めることで他の資源、製品に再利用できるかどうかも、プロジェクトとして検討しています。 

レンズの削りかすをリユースしたオーナメントや、ペットボトルをリサイクルしたエコバッグ、紙製のファイルなども〈ツァイス〉の取り組みの一例。 

目標は、業界全体にいい循環を生んでいくこと。 

マチュー:お互いSDGsの取り組みをする中で、こうして情報交換や議論の場を設けることは大切なことですね。また、このような活動をお客様に気づいてもらう機会を作っていくことも重要です。消費者のSDGs への関心が高くなれば、レンズがどのように作られているかにも意識が行くようになり、SDGsの面も、ビジネス面もともに向上していくのではないでしょうか。 

白山:店頭でサステナブルな商品のバックボーンを伝えていくことも大事なことですね。メガネ業界の多くは中小企業規模以下の事業者なので、できることも少ないのが現状です。だから、レンズメーカー、フレームメーカー、販売店などが一丸となって、業界全体として広くSDGsに関わっていけるような環境づくりをしていきたいと思っています。 

マチュー:メガネはレンズとフレームが合わさってひとつのプロダクトになるものです。だからメーカーとしても、サステナブルなフレームやレンズをスタンダードな選択肢として選べるように提供し、より良い循環を作っていかなければなりません。 

白山:サステナブルな選択肢があることを多くの消費者に伝えていくことで、メーカーにとっても、我々のような小売店にとっても、また地球にとってもいいことにつながる。そうしたSDGs活動になるべきだと思いますね。 

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白山 聡一
東京メガネ 代表取締役社長
日本眼鏡関連団体協議会代表幹事
2023年に創業140年を迎える〈東京メガネ〉の代表。1995年に入社。2008年より、代表取締役社長に就任。2020年、眼鏡業界(製造・販売・流通)の主要団体で構成される日本眼鏡関連団体協議会(日眼協)の代表幹事に。「10月1日メガネの日」の普及活動、SDGs推進委員会委員長としての活動も行う。
ヴィンセント・マチュー
カールツァイスビジョンジャパン 社長
フランス バスク州生まれ。山も海もある美しい場所で19歳までを過ごす。その後フランスを離れ、ロンドンなど、世界各地で働く。2017年、カールツァイスビジョンジャパンの代表取締役社長に就任。
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