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    “まわりからどう見られるか”よりも、
    “自分がどう見えているか”が大切。

    ヴィンセント マチュー
    カールツァイスビジョンジャパン 社長
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    2021.9.1

4年前、暮らしていたロンドンを離れ日本にやってきたヴィンセント マチュー氏。その情熱の裏には、どうしてもツァイスで働きたいと思った出来事があったそうです。そんなきっかけから、〈カールツァイスビジョンジャパン〉の社長として今感じていること、はたまたレンズの未来まで、たっぷりとお話を伺いました。

数々の歴史に立ち会ってきたこの会社で
働くと決めた瞬間。

まず、〈カールツァイスビジョンジャパン〉の代表取締役社長に就任した経緯について教えてください。

私が入社したのは4年前です。当時はロンドンに住んでいたのですが、面接を受けるためヘッドオフィスがあるドイツのオーバーコッヘンへ足を運びました。順調に進んだ面接の終わり際、面接官から「日本支社で働いてみないか」と聞かれたんです。驚きましたね。大陸を越えて働くという大きな決断をすぐにはできず、少し考えてみることにしました。

ですが、帰りの道中にはもう決断していました。というのも面接の帰り、本社隣の博物館「カール・ツァイス光学博物館」に立ち寄ったんです。そこには、ツァイスがこれまでに残してきた素晴らしい功績と長い歴史の間に起こした数え切れないほどのイノベーションの軌跡が展示されていました。中でも感銘を受けたのは、人類最初の月面着陸時にツァイスのレンズが使われたこと。そして、世界大戦における歴史を知ったことです。当時、ツァイスの拠点があった旧東ドイツのイェーナは旧ソ連軍の占領下に置かれていました。アメリカ軍はツァイスの科学者やエンジニアを先んじて旧西ドイツのオーバーコッヘンへ移動させ、ツァイスの高い技術が全てソ連側にわたらないよう画策したんです。以降ドイツが再統一されるまで、ツァイスは東ドイツ社と西ドイツ社に分かれて運営されていましたが、東西統一の後、ようやく統合しました。このような類を見ない出来事がツァイスの歴史をより一層深くしたと思います。博物館を出るころには私は迷うことなく「ここで働こう」と決めていましたね。

運命的な何かを感じたのですね!

そうですね。また、余談ですが私が10代の頃に公開されたスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』という映画にはツァイスのレンズが使われているんですよ。キューブリックは自然光に強いこだわりがある監督ですが、キャンドルの灯りだけを用いて撮るシーンでツァイスのレンズを選んだのです。そのレンズは、当時NASAがアポロ計画のために特別に開発しており、とても明るく撮れるものでした。私は、父が映画館を経営していて、私自身も映画が身近にある環境で育ったせいか、このようなエピソードはとても嬉しくこの会社で働けることはとても光栄に思います。

実際に入社してみてどんなことを感じましか?

入社後1カ月くらい経った頃、ツァイスグループの社長と会ったときに「あなたはこの3年で、何を成し遂げますか?」と聞かれたんです。私は当然「売り上げを上げること」を最初に口にしました。すると即座に「ノー」と返ってきました。「いちばん大切なのは、ブランディングの向上だよ」と。私は内心衝撃を受けました。これまでの会社で、最優先すべきは利益の確保でしたし、私自身もそれを当然だと思っていました。ですが、今になってわかるのは、ブランドを長期的な目線で見たときには、ブランド自体に絶対的な価値があること、その価値を丁寧に育てていくことは、何よりも大事だということです。トップのこのような考えに触れて、ツァイスの社員の満足度が高いことや離職率が低いことにも納得したことを覚えていますね。

メガネ選びで一番重要なのは
その人に合ったレンズを選ぶこと。

ツァイスが考えるレンズの役割とはなんでしょうか? 

本来、メガネというものは“まわりからどんな風に見られるか”よりも、“自分がどう見えているか”が大事です。もちろんフレームにはファッション性が求められるのですが、それだけが重要ではありません。レンズというまわりから見たら一見違いがわからない透明な物体にこそ、メガネの本質があります。特に日本でメガネを買う際、皆さんがまず最初に時間をかけて行うのはフレーム選びで、レンズはその後ですよね。ツァイスでは、メガネの本質に沿ったまったく逆のアプローチをしています。

「ツァイス・ビジョンセンター」では、視力検査を行う前にまずはお客様のことを理解することからはじめます。普段のライフスタイルや、オフィスの滞在時間、一日何時間くらい着席しているのかなどを細かくヒアリングします。そのあと時間をかけて最先端機器を使った細やかな視力検査を行い、最後にフレーム選びを行います。メガネを選ぶときにレンズを軽視したら、快適な視覚は得られませんし、体に悪影響を及ぼす可能性だってあります。私たちは何よりも、その人の健康への影響を優先しているのです。

スマホが普及して、
現代人の「目」には大きな変化が。

PCやスマホに慣れた現代人の目は、昔と比べて変化がありますか?

パソコンやスマホを使うことが当たり前になり、私たちのライフスタイルには大きな変革が起きました。同時に、現代人の目や視覚にも変化が。スマホは、これまでの新聞や本と比べて目との距離が近く、視線を下に向けがちですよね。「距離」と「角度」は、視力に大きな影響を与えますから、スマホが普及して、近視の方がかなり増えていることは否めません。実際に日本をはじめ若年層の近視進行が問題視されています。もうひとつ、現代の私たちは目線の使い方も大きく変わってきました。いわゆる「マルチタスク」ですね。歩きながらスマホを眺めたり、ジムで運動しながらテレビやスマホを観たりと、視点や焦点が素早く移り変わることが習慣となっているのです。

現代の人の目や視覚行動を徹底的に研究し、私たちは「ツァイススマートビューテクノロジー」という新技術を開発しました。そしてその設計技術を生かして、一人ひとりに最適なメガネレンズ「SmartLifeレンズ」シリーズを開発しました。現在のライフスタイルやその人の今のニーズにフィットするレンズをいち早く提案するのも、私たちの使命です。

ツァイスの未来と、
会社として挑戦したいこと。

最後に、レンズ業界や会社の未来についてどのようなことを考えていますか?

これまで、反射防止コーティングやオーダーメイドレンズなど、多くのイノベーションがツァイスから生まれました。おそらく今後はレンズ業界でもVRやARの普及がもっと広がると思います。そのときにも175年間この業界を牽引してきたツァイスが大きな存在感を示せるよう、先駆者としてチャレンジしていきます。

会社としては、ツァイスのサスティナビリティに対する取り組みをしっかりと発信していきたいと思っています。実はツァイスには環境に配慮したプロジェクトが500以上もあります。SDGsに取り組む会社で働くことは、社員のモチベーションにも繋がりますし、共通の認識を持つことで、皆で良い視点をもって考えていきたいですね。

※掲載の写真はツァイスのカメラレンズを使って撮影しております。

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ヴィンセント マチュー
カールツァイスビジョンジャパン 社長
フランス バスク州生まれ。山も海もある美しい場所で19歳までを過ごす。その後フランスを離れ、ロンドンなど、世界各地で働く。2017年、カールツァイスビジョンジャパンの代表取締役社長に就任。
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